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生命に学ぶ


生命は長い年月をかけ、より環境に適応するように様々な進化をしてきました。その結果、多種多様な生命が生まれ、独自の特性を持ち合わせています。環境に適応するために最適化された形態・構造・行動様式の中には、目を見張るような複雑で高度な仕組みが多く存在します。これらの生命の持つ仕組みを理解し、そこから学ぶことで、今まで解決できなかった問題へアプローチすることが出来るようになります。

進化計算システム: 進化計算手法とは、生物の進化プロセスを模倣した計算知能です。個体間の交差・突然変異による新しい個体の生成、環境に適した個体が生き残る自然淘汰の2つが繰りかえされることで、より環境に適した個体が自動で生成されるシステムです。この仕組みを計算機で再現し応用することで、最適化問題などの解を求めることができます。

機械学習: 機械学習とは、過去の経験をもとに環境に適切な行動や有益な知識を習得する能力を計算機に持たせることです。人間のもつ高度な学習能力は、ニューロンと呼ばれる神経細胞とシナプスと呼ばれる結合器の複雑なネットワークによって実現されています。この仕組みを計算機で模倣することで、高度な学習能力を実現させようとする試みがあります。このシステムはニューラルネットワークと呼ばれ、長年研究が行われてきました。ニューラルネットワークは特に画像認識の分野で強みを発揮し、ディープラーニングとして近年注目を集めています。

非線形システム 生命システムでは、多くの非線形な現象が観察されています。生物リズムはその良い例の1つでしょう。例えば、ホタルは腹部に発光器を持ち、一定のリズムで発光します。興味深いことに、個々の発光するタイミングは集団で同期するようになっています。他にも、多くの生命は概日リズムと呼ばれる約24時間周期の体内時計を持っています。この周期は、環境温度が変化しても一定に保たれるような安定な仕組みを持っています。非線形システムでは、数理モデルの構築や数理的解析などが重要になります。

複雑系: システムの個々の構成要素が持つ機能が単純な働きであっても、それらが集まり相互作用をもつことで、システム全体として高度で複雑な機能として作用するという現象があります。たとえば、蟻の餌収集の仕組みです。一匹の蟻は、足元にフェロモンを出す・フェロモンに従って進路を決める・確率的にランダムに進む、という単純な行動をとります。しかし、複数の蟻が同時に活動することでフェロモンによる相互作用が生まれ、餌に対して最短の経路が自然にできあがるようになります。複雑系では、システム全体や未来の振る舞いを解析的に解くことは難しく、計算機を用いたシミュレーションが必要不可欠になります。

人工生命: 生物学における大きな問いの1つは「生命とはなにか」です。生物学では主に、既存の生命を観察することによって生命に対する理解が深められてきました。しかし、既存の生命にとらわれてしまうと、かえって生命の本質を見失ってしまう可能性があります。そこで、自分たちで生命のようなシステム「人工生命」を作り出すことで、生命の本質を抽出しようとするアプローチが行われてきました。このアプローチは、従来の生物学ではわからなかった、生命に対する新たな知見を私達に与えてくれます。

生命には多くの謎がまだ残されています。生命の持つ仕組みから学ぶことは、現代社会の科学技術にさらなる進展をもたらしてくれることでしょう。