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人工遺伝子回路による細胞種多様化の実現!

私たちは細胞種多様化のモデルシステムを人工遺伝子回路で大腸菌に構築しました(R. Sekine, et al., PNAS, 2011).人工遺伝子回路とは,新規機能を宿主に与えるために設計された,人工遺伝子ネットワークのことを言います.

細胞種の多様性は,複数の細胞種から構成される生体組織の機能維持に重要な性質です.ところが,生体移植後における細胞種の多様性を制御する技術は開発されておらず,技術的な課題となっています.申請者はWaddington地形(図1,C. H. Waddington, Allen and Unwin, 1957)の考えを利用して細胞種多様化を制御する技術の開発を進めました.Waddington地形とは,奥から手前に向かって谷が増えていく地形で,地形の上を転がる玉を細胞と見立てて,細胞種多様化の様子を概念的に説明するものです. 細胞種多様化の「場」を概念的に示したWaddington地形は,奥行き方向を手前に進んでいくと横方向で表される細胞状態における安定平衡点の数が増えるという形になっています.私たちはそこに着目し,細胞が自ら産生するシグナル分子濃度依存で安定平衡点の数が一つから二つに増える人工遺伝子回路Diversity generator(図2)を設計しました.

私たちは,この回路が常識的なパラメータの範囲で正常に機能しうるのかを数値シミュレーションで確かめたうえで,Diversity generatorを生化学的に構築しました.そして,Diversity generatorを導入した大腸菌集団が実際に細胞種多様化を起こすことを試験管内で確認することができました.さらに私たちは,シグナル産生量を,シグナル産生酵素遺伝子の変異や植菌量の操作によって増減することで,細胞種多様化後における二種の細胞種の比率を変えることに成功しました.

今回私たちが開発したDiversity generatorは大腸菌用に作られたものですが,将来的には,この人工遺伝子回路を哺乳類細胞に応用することで,多細胞生物における発生現象の解明や,生体組織の構築においてブレークスルーをもたらすことが期待されます.