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生命を知る


生命は私たちにとって最も身近なものでありながら、その仕組みについてはまだ何も知られていないに等しいといえます。生命の謎に迫るための鍵は情報とシステムです。単に、生命を構成する元素は何かといえば、それについてはすでによく知られています。しかし、これらを個別に扱っても生命は理解できません。生命はこれらを複雑に構成し、全体として成り立っているのです。生命が織り成す情報とシステムを読み解くことこそが、生命の本質を知ることだといえます。

バイオインフォマティクス(Bioinformatics)は、生物学と情報学が融合した分野です。この分野では、生命を情報とみなし、情報学の手法により生命の謎を解き明かします。生命の設計図はDNAに書かれています。DNAは鎖状の分子で、四進数でかかれた一次元の情報とみなすことができます。人がもつDNAの長さは3.0×109塩基対 と膨大で、この情報の解析には情報学の方法が必要となります。設計図であるDNAに対して、生命の実体はタンパク質が構成しています。タンパク質は二十種類のアミノ酸から構成されることから二十進数の情報とみなすことができますが、より重要な情報はその立体構造です。タンパク質の機能には立体構造とその変形の仕方・動きが深くかかわっています。これはコンピュータシミュレーションによって解析することができます。 このようにバイオインフォマティクスはDNA配列、アミノ酸配列、タンパク質の立体構造といった、生命にとっての設計図となるような情報の効率的な解析を中心に発展してきました。

システム生物学は、(Systems biology)は、システム工学と生物学が融合した比較的新しい分野です。この分野では生命をシステムとして見ます。生命は内部に代謝、シグナリング、遺伝子の転写制御などは、非常に多くの要素が複雑に作用しあうことで実現しています。システム生物学では、この複雑な作用をネットワークとみなし、システム工学の考え方を応用することで生命の仕組みを理解しようとします。このようにシステム生物学は、バイオインフォマティクスと比べると、生体内のダイナミックな動きを対象として、発展途上にあります。

生命を知ることは己をしることでもあります。これは私たちが追い求める究極の課題です。また、生命を知ることの先にはさまざまな応用があります。これらの応用は生命の仕組みを知らないわたし達には想像もつかないものでしょう。